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シベリア・モンゴル旅日記
〜モンゴル編〜


シベリア編は… こちら

ゲルにて。左から…タオチュウ、アセイ、赤ちゃん、バジル。


< 8月11日(土) / イルクーツク…曇り ウランバートル…曇り時々晴れ >

 イルクーツク12:00発、モンゴル航空130便。アントロノフ24という、旧ソ連製のプロペラ機は、轟音を立てながらモンゴル上空に差し掛かっていた。国際線なのに、何故か自由席。
 13:30すぎ、ウランバートル(ボヤント・オハー空港)に到着。なんとプロペラ機用の滑走路は砂利!着陸寸前、窓の外は土色で、不時着するのかと思ったよ(笑)。タクシーの客引きが、ここでも凄まじかったが、運良く、人のよさげな運転手のメーター付きタクシーに乗ることができた。鼻の下にちょび髭を生やしたこのおじさん、空港の両替所が閉まっていると知ると、市内の銀行に寄ってくれもした。ラジオから流れるモンゴル歌謡曲を口ずさみながら…。音楽の匂いがして、ちょっとドキドキした。今日からは、まったくの一人旅の始まりなのだ。

1946年に建てられた、革命の指導者・スフバートル像。スフバートル広場にて。


 ゲストハウス「あづさや」という安宿に着く。夏休みの混雑で、ベットがまだ用意できていなかった。その時間を利用して、軽く街を見学しようと荷物を置いて出発。まずは、ウランバートルの中心・スフバートル広場へ。社会主義国の面影を残す、巨大な英雄の像。そして、ただっ広い広場。「来たなー。」って感じだ。その後、チョイジンラマ寺院博物館へ。ちなみにモンゴルは、チベット仏教国でもある。チベット仏教独特の仏像(日本では見られない男女の合体仏などもある。)に、異国の空気を感じた。

チョイジンラマ寺院博物館。



 しかし、その後…。事件発生!
 博物館を見学し、まだ時間があったので、再び広場に寄ったのが悪かった。ベンチに腰掛け、タバコを吸っていたその時。ムフとかいう名前の男をリーダーにした青年3人が寄ってきた。「USダラーズ?」モンゴル通貨を手に、両替を迫ってきた。「ノー」と断った。しかし、握手を求められ、さらに「ドルをくれ」と言い寄ってくる。その場を立ち去ろうとしたその時!腕をつかまれ、腕時計を取られた。リーダー以外の二人の男は、その行為を咎めていたようだったが、奴はとまらなかった。仕方なく2ドルを渡し、時計は無事に返してもらった。
 さらに…。広場から宿へ戻ろうと歩いていると、また奴らが追っかけてきた。また手をつかまれたから、もう1ドル渡して、追い払う。ついてない。

 さすがに腕をつかまれた時は、怖かった。無用心だっただろうか?タクシーの運転手の親切と歌に、気分を良くしたのが間違いだったのか?しかし、ついてない!

< 8月12日(日) / 雨のち晴れ >

ガンダン寺、観音堂。

 今日の午前中は、ウランバートルで最も大きな寺院・ガンダン寺に向かった。というのも、毎朝10:00から、僧侶による読経が行われるという情報を仕入れたからだ。小雨の中、ガンダン寺へ。ここには、高さ26mの大きな観音様がいらっしゃる。まずはその観音堂を拝観。奈良・東大寺の大仏(14.73m)を連想するが、東大寺の大仏が座っているのに対し、こちらは立っている。おそらく、東大寺の大仏様がお立ちになったら、これくらいの身長になるだろうか?
 10:00すぎ、お寺のお堂からお経が聴こえ始める。いつか映画で見た、チベット風のお経だ。神秘的な空気に包まれたはずだったが、よく見ると、僧侶があくびをしていたり…。これにはかなりガックリ!

 お昼はモンゴル料理の一つ、ボーズ(肉まんのようなもの)を食べる。なかなか美味しい。
 その後、美術館や博物館を歩いて廻る。その途中、また事件!
 それは、ボグドハーン宮殿博物館に向かう途中での出来事だ。そこに行くには、市の郊外に向かって歩いていかなければならない。当然、人の流れは徐々に少なくなる。だが、先程からずーと同じブーツの足音がするではないかっ!何か怪しい…。試しに、早足で歩いたり、逆にゆっくり歩いたりしてみる。しかしまだついてくる。後ろをちらっと振り返ると、そのおっさん、唾を吐くまねをする。確実につけられている!!
 怖かった!たまらず道を渡るが、おっさんも渡ってくる。「とにかく、人の多い所に行こう。」、そう思って、足取りを速める。やがてホテルが見えてきた。高級そうなホテルだ。「一先ず逃げ込もう。」とホテルに入る。ロビーで煙草を吸ったりして時間を潰す。何とか難は逃れられたらしい。

ボグドハーン宮殿博物館の入場券。

 ようやくホッとして博物館に向かう。その途中、またもや捕まった!向こうから歩いて来た、さっきとは別のおっさんに「日本人か?握手をしよう!」と言われ、さらに「お金をくれないか?」と要求される。昨日のこともあったし、言われるままに1,000トゥグルク(1ドル相当)を渡した。
 モンゴルへ来てから、お金絡みのトラブルが絶えない。もうウンザリしてしまって、タクシーで宿に戻った。

 すっきりしない嫌な気分ではあったけれど、それを覆す素敵なものに今夜、出会う。それは、モンゴルの民族音楽だった。市の中心部の劇場で、毎晩上演されているとの情報を聞き、早速その劇場に向かった。

 馬頭琴や、その他弦楽器、笛といったオーケストラをバックに男女のデュエットが始まる。
 一曲目が始まると同時に鳥肌!もう、全身で音楽を受け止めてしまったのだ。いや、魂の中に、悪戯のごとく入られてしまったといった感じだ。そう、心で音楽を聴く、至福の瞬間。

今日演奏していたミュージシャン達のCD。

 モンゴルの音楽は、日本の音楽に近い。だから、とても懐かしい想いを抱いてしまう。例えば、日本の追分(美空ひばりさんの「リンゴ追分」を連想してもらえばいい。)などにすごく近い。楽器にしても、日本の琴のようなものがあったり…。とにかく、温かい想いを抱く。
 モンゴル音楽といえば、馬頭琴やホーミーが有名だろうか。ここでは、ホーミーを聴くこともできた。技術としては、すばらしいと思う。一人で高音と低音を出すのだから、普通では考えられないことだ。ホーミーの技術はすごいが、普通の歌の方が伝わるものがあった。日本でいうと、美空ひばりさんや中島みゆきさんといった、本当に歌の上手い、伝えられる、そんな素敵な歌手がモンゴルには大勢いる。

ショーのひとコマと、軟体人間!


 ここでは音楽の他にも、ダンスやチベット仏教の舞楽も鑑賞することができた。そして、軟体人間ともいうべき女性による、上海雑技団並みの軟体ショーを展開。「なんでここで?」とか思いながらも(笑)、感心するばかりの身体の柔らかさ。

 今日も色々あったけど、「音楽って素晴らしい!」、ある種言い古された格言のような言葉を再確認した。こんな音楽をいつか創りたい。そう思ったら、いてもたってもいられなくなったよ。

< 8月13日(月) / 晴れのち雨 >

 今日から1泊2日のゲルステイ。
 「あづさや」が主催するツアーに便乗。他に日本人2人が参加していた。10:30頃出発。ウランバートルから車で約1時間、草原が見えてきた。木も生えていない、本当の草原。それが果てしなく続いている。

果てしなく続く草原。後ろに見える山を越えても、そこには草原が続いている。


 そして、ゲル集落に到着。3つのゲルが並んでいる。その中の一つに迎え入れられた。
 まずはバター茶。映画・「セブン・イヤーズ・イン・チベット」でブラピもこれを飲んでいた。表面に膜が張るほど新鮮なのだが、日本人には辛いかなぁって味。さらに、馬乳酒でもてなされる。これは馬の乳を発酵させたお酒で、アルコールは2〜3%と低いのだが、酸っぱい。飲食こそ、究極の異文化体験だ(笑)。

食事の支度をする、お姉さんとバジル。写真では綺麗に見えるが、蝿がブンブン飛び廻っている。


 昼飯は、モンゴルうどん。これはなかなか旨い!屠殺されたばかりの羊の肉が入っている。ゲルの中の色彩は、実に綺麗だ。

ゲルにて。

 このゲル集落には、2世帯、9人が暮らしている。俺達がお世話になったのは、観光用ゲルなどではなく、本当の遊牧民のゲル。だから、電気はもちろん、水も、トイレもない。その代わり、草原という大自然の天然トイレがある(笑)。
 俺は、26歳の息子夫婦のゲルにお世話になることになった。そこには10ヶ月になる赤ちゃんがいた。メチャクチャかわいい顔をして眠っている。赤ん坊の顔を見ていると、とっても優しい気持ちになるもんだね。

かわいい赤ちゃん。親が仕事に出る時は、このように縛られてしまうらしい…。


ぎこちない最初の乗馬。右側は、26歳の若親父。

 昼食の後には、馬にも乗せてもらった。乗馬は楽しいね!最初は乗せられてるって感じだったけど(笑)。

 夕方は、タオチュウという小学生くらいの子供と遊んだ。無邪気なんだなー。「あなたの名前?」、覚えたての日本語を笑顔いっぱいに使うタオチュウ。俺も童心に還って遊んだ。相撲とか、日本でいうところのチャンバラとか、兵隊ごっことかね。馬のウンコ(ゲルの周りには、馬やら牛やら、羊やら山羊やら、時には人間のウンコが、あたりまえに転がっている)を投げてきたのには、さすがに参っちゃったけど(笑)、本当に楽しかった。

「タオチュウ!」



 草原の夜は、真っ暗。本当に真っ暗だ。だから、日が昇ると起き、日が沈む(とはいっても夏場の日没は22:00くらい)と寝るという生活があたりまえなのだ。天気に恵まれれば、実に綺麗な星空が見えるそうだけど、その日は運悪く、夜から雨。

< 8月14日(火) / 雨のち晴れ >

 7:00起床。寒い!昨夜の雨で、冷え込みが厳しくなっているようだ。

朝の草原、颯爽と馬を操るバジル。

 ゲルの外では、12歳のバジルが颯爽と馬に乗り、牛を追っている。バジルという少女は、実に働き者だ。草原では、「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に。」という世界が、今に言う男尊女卑などではなく、自然の営みとして流れている。そして子供も、親に言われるわけでもなく、自然に家事を手伝う。その馬に乗る姿が、実にカッコいい。

子守りもこなすバジル。


 そのバジルが、今朝の俺の乗馬の先生だ。なかなか走り出さない俺を乗せた馬を、馬に乗ったバジルが先導する。かなりのスピードで走り出す俺の馬。静まり返った草原の風を切る。朝の草原の空気は、心地よい緊張感に包まれていた。

馬に乗るのにもようやく慣れてきた。草原では、雲の影がとても綺麗だ。



 お昼過ぎに迎えの車が来る。それまでの時間、バジルやタオチュウと過ごした。俺達には失ってしまったものがある。悲しいけど、「アメ玉」で歌ったそのことを、再確認した。彼らの瞳に負けた。子供の笑顔、まっすぐに届いた。

< 8月15日(水) / ウランバートル…雨 大阪…快晴 >

 ひとつの旅が終わる。早朝6:00、空港へと向かう。
 草原でのバジルやタオチュウの笑顔。しかし、都市ではマンホールで暮らす子供達がいて、外国人にお金を集る者達もいる。一体、何なんだ?
 金銭的な豊かさは、貧富の差を生んだ。物が豊かではなくとも、それがあたりまえであれば、大いなる自然の下、心豊かな「生」がある。

 人間って何なんだ?


 4時間のフライトの後、猛暑に喘ぐ関空に降り立った。

あたりまえに時間は流れる。



 2001年8月 松田 亜世 










©2001 Asei Matsuda



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