ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしや うらぶれて異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや ひとり都のゆふぐれに ふるさとおもひ涙ぐむ そのこころもて 遠きみやこにかへらばや 遠きみやこにかへらばや                  室 生 犀 星 「小景異情」


1st Stage・・・スクリーンに映し出された映像が歌とリンクする。


 「いつでも帰って来いや。」

 そんな友の声が、この街・金沢にはある。
 何年か前、「東京」に耐え切れなくなって、「今から帰る」と朝一番の飛行機に飛び乗って金沢に帰ったことがある。その頃からだろうか、故郷・金沢という存在が、僕の中に重奏低音の如く流れ始めたのは…。
 そこには、犀川が流れ、医王の山々が連なり、日本海に沈む夕日があり、河川敷を走り回った幼馴染の笑顔があり、家族が在る。そして、紛れもなく僕の青春の燃え滾る血が流れている。

 正直、今年は本当に色々あった。吉祥寺を離れ、「東京」に出てきた意味さえ見失いかけた日々が続いた。自分勝手な言い方だが、また前に進む為には「金沢」という地で、どうしても歌いたかった、いやこの場所で歌わねばならなかった。

胴上げされる星野監督(↑)、星野監督の優勝インタビュー(↓)と共に「Victory」を歌う。タイガースファンにとっては、最高の2ショット!

 ちょうどその時、高校時代の友達から連絡があった。「俺達学生が、ボランティアで運営する、昔の映画館でコンサートをやってみないか?」、そこから全てが動き始めた。
 会場は、香林坊ハーバー。金沢の中心地、香林坊の旧映画街にあたる。運営メンバーによる設計で、座席は取っ払われ、ステージと客席が、上から見ると卵型になっている。そしてステージ奥には、映画館だった頃のスクリーンがそのまま残っている。
 「スクリーンにプロジェクターで映像をリンクさせながらやろう。」
 そう提案してくれたのは、今回チーフを務めてくれた元野球部・半本だった。前日のNHK金沢生中継では、「高校時代亜世は応援團長で、野球部だった僕らを応援してくれた。今度は、僕達が亜世を応援したい。」とのコメントをしてくれた。たまらなく嬉しかった。友情という言葉で片付けてしまえば、安っぽく聞こえるが、誰にも真似のできない、僕らだけの最高の一夜が創れる、そんな力強い予感が僕の中を駆け巡った。

『荒野を越えて』。この曲を書くきっかけとなった、難民の映像をバックに祈りを込めて歌う。


 『海の唄』で幕が開く。広い会場一杯のお客さんの拍手に迎えられた。「ただいま!」そう心で囁きながら、海をイメージしたブルーの照明に照らされ、ステージは始まった。
 当日のリハーサル後に、映像の前さんと、これまた高校の同級生・羽田純人が提案してくれた映像をバックに前半戦のステージは進んでいった。
 今回のステージは、ボランティアという以上に、素敵なスタッフに恵まれた。映像、照明、受付、音響、中には本番当日初めてお会いする方もいたにもかかわらず、本当に快くひとつのステージを創り上げて下さったことに、心から感謝したい。この出会いが、このコンサートのかけがえのない大きな財産となった。

Piano&Chorus:吉田佳奈子と共に。

 幕間には、スクリーンにてプロモーションビデオを上映した。これもまた、東京の映像作家・上坂さんがこの日の為に色々手直しを重ね、完成したものだった。

 そして、2nd Stageへと続く。2nd Stage前半は、金沢の想い出が詰まった曲が並ぶ。高校時代ライブハウスで初めて歌った『Lonely Road』、まさしく冬の金沢がモチーフになった『雪国の少女』。さらには、僕の実家の前を流れる犀川がテーマになっている『あの川のほとり』…。この唄を歌いながら、たまらなく込み上げるものがあって、涙をこらえるのに必死だった。時に唄は、自らの原風景と重なる。いつかは全て、そこに還ってゆくのだ。

頂いた花束を手にサポートの吉田佳奈子と握手。


 儚く消え逝く定め、人間の命を謳った『ともしび』、戦争の裏側『荒野を越えて』、『荒地の果てに』。命の使い方を間違えちゃいけない、戦争で命を落とすくらいなら、戦争を止める為に命を懸けたい、僕はそう思う。その思いを、『荒地の果てに』のピアノとギターとの激しいぶつかり合いに僕は魂を込める。

 『僕らの時代は風に吹かれて』、『今宵、雨の中』、『夕日の前に佇んで』、2002年から続く、吉祥寺マンスリーワンマンライブの中で生まれた代表的な3曲で本編を締めくくった。

大きな花束を頂き、ステージを後にする。

 アンコールの大きな拍手を頂き、僕なりの人生賛歌『君の待つ海』を会場の手拍子と、パーカッションに乗せて歌う、最高の瞬間だった。
 いくつもの花束、プレゼントを頂き、ステージの最後は金沢時代から歌い続けている、僕の中のテーマソングともいうべき『夜明けの月』を精一杯歌わせていただいた。

 「これから北陸は、寒い寒い冬の季節がやってきます。そして、冬の後には暖かな春がやってきます。その春を待つ北陸人の心が、僕は凄く美しいと思うし、どんよりとした冬の空でも、たまに見せる満天の青空、それが北陸人の、金沢の誇りのような気がしています。本当に僕はこの街に生まれてよかった、心からそう思います。また必ずお会いしましょう。ありがとうございました。」
(MCより)



 僕にとって「金沢」は、永遠に還る場所であり続けるだろう。この場所が存在する限り、歌い続け、生き続けることができる、そんな気がした。

 ありがとう、金沢!

 そして、このステージに関わって下さった全ての方に、心から感謝します。



2003年12月 松 田 亜 世



〜 S E T  L I S T 〜

<Stage1>
1.海の唄
2.エレナ
3.アメ玉
4.渋谷のピエロ
5.見つめていたい...
6.天漢
7.Victory
8.青の時代

- 休 憩 -
(プロモーションビデオ『僕らの時代は風に吹かれて』上映)

<Stage2>
1.Lonely Road
2.雪国の少女
3.がんばるまっし
4.あの川のほとり
5.ともしび
6.荒野を越えて
7.荒地の果てに
8.僕らの時代は風に吹かれて
9.今宵、雨の中
10.夕日の前に佇んで

<アンコール>
1.君の待つ海
2.夜明けの月


Piano&Chorus:吉田佳奈子





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